大腿骨転子部骨折には「リバースタイプ」や「逆斜骨折」と呼ばれる、不安定型があるのはご存知でしょうか?
転子下骨折と合わせて、整復困難や骨癒合不全を起こしやすい難渋する骨折として知られています。
この逆斜骨折はEvansの分類ではタイプ2とされており、大腿骨近位外側骨折の5〜7%を占め、nail欠損、cut out,など成績不良の報告が多くされています。
下のEvansの分類を見ていただくとよく分かるのですが、通常では大腿骨転子部に並行になるように骨折線が入りますよね。
でもリバースタイプでは、小転子を飛ばしながら逆斜めに骨折線が入り、頑丈な内側骨皮質を粉砕して荷重を受けにくくします。また合併して、骨折線が複数入っていることが多く、より不安定性が増すと報告されています。
Evansの分類
画像引用:minds.jcqhc.or.jp
なので骨片を安定させるためには、ガンマネイル ロングタイプなど長い固定材料でしっかり止める必要があります。
ロングネイルを入れる際は、通常のタイプのようにハンマーで打ち込むだけではなく、髄腔リーマーと呼ばれる削る機械で大腿骨の中の空間を広げて挿入する必要があります。
これは大腿骨骨幹部の「大腿骨峡部」と言われる髄腔の形状ためです。
実は大腿骨の髄腔には種類があって、Dorrの分類などで区別されているのですが、これはまた別に書いて整理予定。
「大腿骨峡部」は漢字のごとくとても狭く、ここをステムが超えると、
ロングネイルの安定性が格段に増して固定できるそうです。
それでも、骨折部の不安定感が残存する例があるのが、この骨折の恐ろしいところです。適切な処理をしても、ネイルの交通部分が金属疲労でへし折れてしまう例が報告されています。
画像引用:DYAX-A nailの折損を生じた大腿骨転子部骨折の1例-今までに報告された折損ネイル(51本)の検討 図2,3
6〜18ヶ月の間で発生しており、原因は骨折部の遷延癒合のため、荷重をささえることが出来ないことだと言われています。
ですから術後の荷重練習は、ほかの大腿骨転子部骨折に比べて慎重に実施します。勤め先では3週目からPWB1/3から開始するのが通例になっています。
参考文献
加納利哉 ほか,大腿骨転子部逆斜骨折の骨折線,骨折38(4),pp1054-1057,2016
櫻井信彦 ほか,大腿骨転子部逆斜・転子下骨折における術後整復位からみた骨癒合関連要因,骨折38(2),PP.372-375,2016.
佐々木大 ほか,大腿骨転子部逆斜骨折に対する骨癒合術の検討,骨折37(4),pp.1009-1013,2015
額田昌門 ほか,DYAX-A nailの折損を生じた大腿骨転子部骨折の1例-今までに報告された折損ネイル(51本)の検討,骨折31(4),pp.326-330,2009.