ギプス固定後深腓骨神経麻痺の原因を考察してみた

アキレス腱断裂後に縫合を行った症例さんがいらっしゃるのですが、どうやら深腓骨神経麻痺を合併してしまったようです。

その過程で前足根管症候群とコンパートメント症候群の可能性を考えたのでメモしておきます。

この方縫合後ギプスで固定していたのですが、固定肢位が過度な内反位になってしまっていました。

それで外果の内側あたりが圧迫されることになり、「ギプスの当たりが痛い」と訴えをされていました。

そのため1周間もたたずに半シーネ固定に開放、痛みは収まったのですが「しびれ」の訴えは残っていました。

このときは気づかなかったのですが、母趾と示趾内側に特徴的な感覚低下の訴えをされていたのです。

深腓骨神経の皮膚知覚神経支配

OPEより2週間ほど経過してアキレス腱のactiveROM-exが許可されました。

さーて待ちに待った背屈許可が降りたのでさっそく開始です。

しかし、足首が上がらない、、、前脛骨筋をはじめとした伸展筋群の筋出力が発揮されないのです。

おまけに母趾伸展まででない。

最初は固定後の廃用、足関節の拘縮が原因だと思ったのですが同時期にアキレス腱縫合を受けた患者さんに比べると明らかに動きが悪い。

そこでやっと深腓骨神経麻痺の可能性にを考えました。

前足根管症候群?

まず考えたのはギプスによって直接、深腓骨神経麻痺が圧迫される前足根管症候群でした。

これは内果の内側あたりを走行している前足根管を長期間圧迫することで症状がでる病態です

靴紐をきつくしめたり、正座で長時間圧迫などで起きるとされています。

スキャン

画像引用:鳥巣岳産(編)他,標準整形外科学9版,医学書院,pp741

今回は圧迫を解除しても即時的には改善もなく数日経過してもティネル兆候もなかったためaxonotmesisに近い状態になっているのではと考えました。

主治医に報告しましたが経過観察で問題ないだろうとコメントいただき、追加で深腓骨神経領域に低周波を実施していました。

(低周波を支配神経領域に流すのってホント難しい!「今ビリビリ親指にきてます!あ、もうちょっと横です」と患者さんに教えてもらいながらやっとこさできました)

このあと3日ほど経過観察しましたが感覚の回復はみられず、依然ティネル兆候も確認できませんでした。

前脛骨区画症候群?

深腓骨神経

悩みながら数日経過。

このころ前脛骨筋の筋腹から筋腱移行部にかけて筋スパズムが目立っていました。

もっと機能的にactiveの背屈をだしたかったので局所的なマッサージや足部ROM-exでリラックスを得たのですがなんと1-3日で感覚低下していた母趾・示趾間の触覚1/10が6/10あたりまで復活したのです。

結論を書くと軽度の前脛骨区画症候群(コンパートメント症候群)が原因で神経麻痺が起きていたようです。よく解剖学を見てみると深腓骨神経は母子側を通過していて、

今回のギプス圧迫部位である腓骨の内側にはかかっていないんですね。これでは前足根管症候群の可能性は低いはずです。

 患者さんの下腿を見てみると前脛骨筋の膨隆は僅かで皮膚は少し光沢があって浮腫っぽく循環不全を起こしている印象でした。

決して骨折後や筋損傷後の急性期のような腫脹はなく、教科書的な筋膜切除をおこなって減圧をかけるような劇的なコンパートメント症候群の症状ではありませんでした。

しかし足部内反位での長期間の不動は侵害刺激となって筋スパズムを起こし脛骨前方区画の圧力上昇が起こったと思われます。

もしかしたら過度の内反位固定で深腓骨神経にストレッチがかかっていたのかもしれし、ほかにも可動域改善のため持続的なactive背屈を患者さんにお願いしていたので疲労から筋スパズムを促す原因になった可能性もあります。

どちらにせよ4週目の現在では母指の付け根あたりからティネル兆候がでており、8/10まで感覚は無事改善してきているのでこのまま経過観察をしたいと思います。

参考・引用文献、HP

鳥巣岳産(編)他,標準整形外科学9版,医学書院,pp619.741.,2005.

前足根管症候群(深腓骨神経麻痺) – 古東整形外科