ARCRとは「Arthroscopic Rotator cuff repair」の頭文字をとったもので、鏡視下腱板断裂手術のことです。直視下の縫合術が6cm程度の傷に比べて数カ所に1cm程度の傷が残るだけと低浸襲であり、また深部まで容易に侵入できる利点があります。下にある動画で概要が理解できます。
反対意見として術視野が狭く難度が高いため時間を要し(早ければ1〜2時間程度、遅ければ数時間)、場合によっては十分な縫合を行うことが出来ないケースもあるとされています。
どちらにしろ縫合部分は繊細なため関わる職種はどの程度まで動かしても良いのか、通常以上に知っておく必要があります。
ARCRのプロトコールまとめ
目次
術後のプロトコールと注意点
これから書くプロトコールはARCRのリハビリテーションに関わっているセラピスト達にお話を伺った内容に、少し教科書と自分なりの考えで補填して、頭の整理と備忘録用に書いたものです。
大きな流れは問題ないと思いますが意見の分かれる部分もありますので、あくまで参考程度に。m(_ _)m
術後翌日 外転枕付きウルトラスリングを装着 肘・手指の運動は可能
術後〜3日は腱板の炎症期。修復した部位に血小板と線維芽細胞が移動していきます。
OPE後すぐに装具を着用します。下の画像がウルトラスリングⅣで全体像が見える左側はノーマルタイプ、右側の大きな枕が付いているのがARCRで使用されるabductionタイプです。
この時期は肩甲帯周囲の緊張緩和と機能維持を行いながら患部外の肘や手指の運動を中心に行います。activeな肩甲骨の運動を初日から許可をしている病院もあるそうですが、私は近い部分ですから縫合箇所へのストレスが起きるかも?と思いますし、「下方回旋によって棘上筋の離開ストレスがかかる恐れがある」と言われる勉強会もあったと伺ったので積極的には実施しません。
肘屈曲ですが上腕二頭筋腱長頭が断裂しているケースもあり、その場合も術後実施してもよいのかな?と疑問に思っていましたが、Drに確認すると鏡視下での長頭腱の縫合は困難であり通常は修復されないので、OPE部に影響がなくOKでした。
あと骨頭の安定性に二頭筋腱長頭は大きな影響はないので再建の必要性は少ないと説明して下さいました。これは疑問が残るのでまた調べたいですね。
ADLですが、この時期は外転枕があるため着替えが大変。肩がマジックテープで開くタイプの便利な服もあるそうです。
画像出典:UltraSling IV | DJO Global UltraSling IV AB | DJO Global
術後2週目 他動にて肩関節屈曲・外転 外旋は0度までOK
4週まではタイプⅢコラーゲンが沈着して、瘢痕組織を形成する時期。
外旋0度までの範囲内なら屈曲・外転は一応フリーになります。しかし外転は90度あたりで後外側路に大結節を逃さないとimpingementを起こしてしまうので、90度までの実施が無難かと思います。
ROM-ex(passive)は患者さんにできるだけ力を抜いてもらって、腱板に収縮が入らないように行いますが痛みが残っていることも多く、特に遠心性収縮では反射的に収縮が入ってしまいがちです。
上手くやるコツを先輩セラピストに指導して頂いたところ「90度から降ろす時に上肢を下から支えて伸展方向にpushしてもらう」とリラックスが得やすいそうです。この方法で棘上筋の収縮を拮抗筋で抑制しながら降ろすことができます。
また痛みがあまりに強く(CRPS様)動かせないような方にはスポンジの硬さを識別する認知運動療法的なアプローチを先にすると有効と伺いました。
外旋可動域は0度まで可能になります。これは肩甲下筋腱損傷が合併しており、修復されていることが多いためです。ファースト外旋は思いっきり、前面にある肩甲下筋に伸長ストレスを与えるので創部が安定してくる6週までは積極的に行わず、少し外転した肢位で外旋を実施していきます。病院によっては積極的な制限はしないこともあります。
また最初に制限した肩甲骨モビラーゼーションもこの時期から少しづつ実施します。
※追記 2016/9/10
肩甲骨内転位での短縮が起こりやすい傾向があったので、Drに水平内転の時期を相談してみたところ術後1週からマイルドに開始してもいいでしょうとコメントもらいました。もちろん損傷度に応じて変化が必要です。慎重に実施してみよう。
術後3週目 外転枕除去
2~3週目で抜糸になりDrより入浴許可が降りる頃です。外転枕が必要な時期ですので下の画像のようなショルダーハーネスを使用して入浴します。装具屋さんで注文できます。
なければ500mlのペットボトルを5本くらまとめて、お風呂の背中をこする垢すりなどを組み合わせることで対処ができるそうです。外転枕がなくなってスリングのみが必要な時期もセラバンドみたいなもので腕を吊って対応できます。
画像出典:RACOON
※追記 2016/9/10
伸展動作も3週経過で開始方向へ。SSC上部線維が断裂・縫合していることがほとんどなのでこちらも慎重に実施。けどSSCは強度が強く縫合後はあまり断裂しない印象があり、反対にSSPは本当に注意が必要だと思っています。
術後5週目 自動介助運動にて肩関節 屈曲 外転 外旋
下垂位からの挙上練習は縫合部に強い負荷がかかるので、80度屈曲まではアシストしておいて90度〜120度の腱板が求心位をとれて負担の少ない角度から収縮を入れていきます。
術後6週目 ウルトラスリング除去 自動運動にて肩関節屈曲・外転・外旋
術後6〜12周目は腱板に適度なストレスを加えて治癒を促進する時期になります。12ヶ月まではタイプⅢコラーゲンがタイプⅠコラーゲンに置換されていき、適度なストレスで組織の抗張力が増加していきます。
メニューはアウターを抜いた状態でのワイピングex、サード内旋(サードって言葉は使っちゃいけない?)など負荷を腱板にかけていきます。少しづつファースト外旋も徐々に開始、この時期の外旋はセカンド>ファーストに可動域がなっている予定です。
12周目〜 腱板の筋力向上、強化を図る
上肢支持強い強度の運動は3ヶ月、労働での強い負荷は6ヶ月たってDrに確認して実施になります。
効率よく知識を吸収するなら、本を読もう!
ARCRの注意点を一通り押さえることができます。というか整形疾患に関わる前には必ず読どきたいレベルの本。
整形外科医向けのARCRのマニュアル本。術式の細かい違いや実際の内視鏡の写真が豊富なので、本質まで知りたい方はこちらをどうぞ。
他院のプロトコールは?
2016/10/26追記 他院でのプロトコールを見つけたので参考に貼っておきます。僕の勤め先に比べて、早い経過をたどっていますね。ご参考にどうぞ。
画像引用:(監)越智光夫(編)米田 稔,スキル関節鏡下手術アトラス肩関節鏡下手術,文光堂,2010.
参考文献、HP
(編)林典雄,(編)浅野昭裕,整形外科,関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹 第2版,MEDICALVIEIV,pp.38-41,2014
三井貴史 他,鏡視下腱板修復術患者の肩のJOAと肩関節自動可動域とDASHの関連性
(監)越智光夫(編)米田 稔,スキル関節鏡下手術アトラス肩関節鏡下手術,文光堂,2010.