痙縮と痙性の違いを厳密に書いてある教科書や文献は少ないです。
理学療法技術ガイド第3版では「腱反射が亢進している場合、筋緊張は痙縮状態であり、痙性の症状を呈する」と記述しており、痙縮は病態、痙性は症状として書かれています。
今回はより包括的な表現として痙縮を採用させていただきます。
痙縮のメカニズムを理解しよう!反射性要素と非反射性要素について
目次
痙縮の2つの要素
異常筋緊張のうち亢進した状態に痙縮があります。
潮見(編)の脳卒中に対する標準的理学療法の介入では痙縮は上位運動ニューロンの障害による「相動性伸張反射の病的亢進」とされ、近年では筋・関節の構造的要因である非反射性要素(生体力学的要因)の総和として筋緊張異常を捉えることが重要であるとしています。なので痙縮は反射性要素と非反射性要素を分けて考える必要があります。
痙縮の反射性要素(神経生理学的機序)
画像:田中 勵作,痙縮の神経機構より引用
田中(1995)は多彩な要因を説明しながらも「痙縮のメカニズム候補ランキング第1はγ運動ニューロン活動の亢進である」としています。一般的に錐体路障害によって中枢からの抑制が外れてγ運動ニューロンの亢進が起こり、これにより筋紡錘の感受性が高まり求心性伸張反射が高まるためと言われています。
しかし菅原(2007)は痙縮筋の筋紡錘活動を末梢神経からmicroneurographyを利用して観察した研究から、γ系活動の異常亢進はないとする報告がなされており、唯一の原因とすることはできないと説明しており、他の要因も目を向けることが必要です。
近年ではα運動ニューロンの求心繊維が発芽現象を起こし、筋紡錘からの求心性入力の増加が起こり亢進するという説が有力視されています。また単純に錐体路の単独障害で起こっているのではなく、抑制性の下降路である網様体脊髄路や前庭脊髄路などの錐体外路の関与が示唆されています。
痙縮の非反射性要素(生体力学的機序)
盧ら(2005)はDietzらを引用し「関節の他動運動によって生じる伸張反射由来の抵抗と,関節を構成する組織の粘弾性によって生じる抵抗とに分類することができる」とし、筋の伸張性と粘弾性の評価の必要性を説明しています。
麻痺や廃用によって2次的に筋や腱などの結合組織は架橋形成や粘弾性への変性、短縮など様々な変化が起こります。これらは筋紡錘に加わる力の伝達性や伸長度を増加させ痙縮を助長させる可能性があります。そのため可動域の維持・改善が重要になってきます。
痙縮はどうやって区別する?
被動性,伸展性,硬度を従来の方法で確認しながら総合的に判断する他ないようです。定量的に計測できるように研究は進められているようですが、現場で簡単に使えるような決定的なものはみつけられませんでした。
なので基本に立ち返って、
- ジャックナイフはでるか?
- 伸筋・屈筋に選択的にでているのか?
- 反射は亢進しているか?
- 硬度はどうだ?可動域は十分か?
- 姿勢で変化するのか?
など評価をで確認し、どちらの要素が強くてどのようにアプローチするのかを考える必要がありそうです。
参考にした文献
石川齊(編),武富由雄(編),図解理学療法技術ガイド 理学療法臨床の場で必ず役立つ実践のすべて第3版,pp.177-188,2007
盧 隆徳他,痙性麻痺患者における足関節のいわゆる“硬さ”の検討,総合リハビリテーション,33(6),pp. 562-566,2005.
潮見泰藏(編),脳卒中に対する標準的理学療法介入 何を考え,どう進めるのか?第1版,PP,239-258,2007.
菅原憲一,理学療法関連用語〜正しい意味が分かりますか?,PTジャーナル41(1),pp.65,2007.
田中 勵作,痙縮の神経機構-再訪,リハビリテーション医学 ,日本リハビリテーション医学会誌 32(2), pp.97-105, 1995.