SLR(Straight-leg-raising)やパテラセッティングは等張性運動に比べて膝関節への負荷が少なく痛みを伴わずに実施できる等尺性運動のため、下肢の術後早期や膝OAの大腿四頭筋トレーニングとして臨床場面で一般的に行われています。
しかしながら大腿四頭筋のトレーニングとしてSLRを考えた場合、いくつか疑問点が挙げられています。
今回はSLRのバイオメカニクス、筋電図的な特徴と術後早期に必要な運動量について紹介します。
SLRは筋力増強として意味はあるのか?大腿四頭筋トレーニングとしてのSLRの問題点
目次
SLRのバイオメカニクス
SLRは膝伸展筋力のトレーニングではなく股関節屈筋としての要素が強いため、膝関節伸筋に十分な負荷がかからないと言われています。
これはレバーアームから説明できます。関節に掛かる負荷は次のような式で計算されます。
モーメント(負荷)=力の大きさ(重さ)×レバーアーム
画像をみると股関節のレバーアームが膝関節より約2倍近く長くなっており、股関節屈筋により大きな負荷(モーメント)がかかることが分かります。
大雑把に考えると遠くで物を持つより近くで物を持つほうが楽なのと同じ理屈ですね。
SLRの筋電図の分析
SLRでは内側広筋よりも大腿直筋の筋活動が高く、負荷が増しても大腿直筋のみの活動が増加します。なので大腿四頭筋では大腿直筋以外の筋には十分な効果をあげることができません。
それに比べ、パテラセッティングは内側広筋、外側広筋の筋活動が大腿直筋に比べて高いトレーニングです。なので両方の組み合わせでバランスよく大腿四頭筋に刺激が与えられることになります。
疾患のある膝へのSLRの影響
関節浸出液があると関節内圧が膝伸展位で大腿四頭筋に抑制をかけることになります。膝関節に主張がある場合は十分な筋力増強効果が得られない可能性があります。
SLRで筋力を維持しようと思ったら、どれくらいの運動量が必要?
市橋、吉田(1993)は大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量を筋電図によって調べた報告を以下のように述べています。
自然歩行1万歩に対して内側広筋においては、SLR(5秒保持)では約1200回、pattela setting(5秒保持)では約400回,膝屈伸(2秒で1回)では約6000回,膝伸展(2秒で1回)では約2000回を行って、はじめて同じ筋活動となる。
この結果から考えると、一般に病因で行われている訓練頻度による筋活動量の総量は、歩行時に使われている筋活動量の総量に比べ非常に少ないことになる。また、これだけの量を理学療法訓練時間だけで補うことは不可能である。
以上のことから市橋、吉田らは臥床または非荷重期は高頻度の訓練と、早期より訓練だけでなく活動性を上げる必要性があると結論づけています。
たしかに経験的にも早期にトイレ動作を確立するような方や積極的に活動する方は予後が良い気がしますよね。できるだけ患者さん自身に行動してもらえるようにお話してみることが重要なのかなと思います。
参考文献
市橋則明(編),運動療法学〜障害別アプローチの理論と実際〜第一版,文光堂,pp.180-181,2008.
市橋則明,吉田正樹,大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量について,体力科学42,PP.461-464,1993.
岡西哲夫 他,Straight-Leg-Raising 促通訓練法について-大腿直筋反応時間による検討-,理学療法学14(5),PP.373-379.1987.