整形外科医のHoppenfeld(1984)はExtensionLagを「膝関節伸展の終わりの10度ができないか、また最大努力でしてかろうじて伸展しおえることができる」と定義しています。
つまり可動域はあるのに自動伸展することができない現象で、原因は大腿四頭筋の出力不足とされています。
従来は内側広筋の筋力低下が原因とされることが多かったですが、以前書いたように内側広筋(VM)は伸展最終域で働かないので考えにくいです。
峰久ら(1994)のExtensionLagの筋電図研究でも、直接損傷を除けば大腿四頭筋の収縮不全を否定しています。
では可動性と大腿四頭筋の出力低下がないのに上がらない場合は、どんな問題があるのでしょうか?
二つの特徴的な原因をあげてみました。
エクステンションラグの二つの原因
目次
エクステンションラグの原因① 腫脹・水腫による神経生理学的抑制
Kennedyら(1982)は生理食塩水を関節包内に注入して大腿四頭筋に反射性抑制が生じることを報告しています。これは腫脹・水腫を再現すると伸展筋力に抑制がかかることを証明した実験です。
この場合、筋力の回復には穿刺や炎症の沈静化が必要になります。
エクステンションラグの原因② 縫工筋や大腿筋膜張筋の過活動
神戸大学の阪本ら(2008)はTKAの膝伸展不全について報告しています。
これは術後に水腫や浮腫を生じいないグループがなぜ伸展不全を起こすのかを研究したもので、これによると伸展不全を生じたグループは順調に伸展したグループに比べて縫工筋と大腿筋膜張筋の過活動が起こっいたとされています。
面白いことにこれは術後に学習されたのではなく、術前から特異的な収縮をしていたそうです。
ここから導かれる推論はOA変化によって働きやすい筋やその作用に変化が起こっている可能性です。
本来は大腿四頭筋が働くところで別の筋肉が過活動を起こしてしまい代償的に伸展していて、手術や骨折などのアライメント変化や力学的変化で筋出力のバランスが変わってしまい上がらなくなってしまうと思われます。
アプローチは代償動作を抑えた協調的な筋収縮練習でしょうか。
エクステンションラグの問題は立脚での膝折れ
Extension Lagで心配されるのが膝折れです。大腿四頭筋のブレーキが使えないとば急激な膝関節屈曲が起こってしまうはずです。
しかし膝には「機能的膝伸展機構」という代償機能があります。これは足部が固定される荷重下で大臀筋、下腿三頭筋、ハムストリングスが働くことにより膝関節を後方へ引き伸展させます。
ちなみに高木ら(2011)は大腿二頭筋の役割が大きいとしています。
このためOKCではExtension Lagが起こるのにCKCでは起こらないという現象が起こることがあります。
臨床では少々Extension Lagがあっても安全さえ確保できれば荷重練習を早期から行い機能的膝伸展機構が使えるように配慮するのも大事だと思います。
まとめ
治療では腫脹や水腫の軽減や筋の協調性改善を計り、大腿四頭筋の廃用対策をしながら代償的な機能的膝伸展機構が使えるように荷重下に早く持っていく。
参考にした文献、HP
Hoppenfeld(1984),図解四肢と脊椎の診かた,野島元雄他(訳),医歯薬出版,pp.-181
kennedy JC,Alexader IJ,Hayes KC,(1982),Nerve supply of the human knee and its functional importance
峰久京子他,( 1994), [Extension lag の筋放電特性について: 表面筋電図による検討,理学療法学 21(Supplement No.2)
阪本良太, 武政 誠一, 中川法一,(2008),変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術後の膝伸展について
高木 啓至他,(2011)下肢悪性骨腫瘍症例における機能的膝伸展機構の運動学的解析,第46回日本理学療法学術大会