勤め先で大腿骨頚部骨折のクリニカルパスを見直そうという話がありまして、いい機会なので一般的な情報をブログに書いて考えをまとめることにしました。
まずはクリニカルパスとプロトコールの違いから調べてみました。似たように使われる言葉なのですがyahoo知恵袋さんいわく、
プロトコールは薬物投与のスケジュール、クリニカルパスは患者さんの治療計画に使う傾向のようなので今回はクリニカルパスと表記します。
ではクリニカルパスについて色々考えていきましょう。
大腿骨頚部骨折のクリニカルパスについて
目次
骨に対する見解
まずは観血的手術でいつから荷重をしてよいか考えてみます。
早期荷重による遅発性骨頭壊死や偽関節のリスクはないといった報告がある一方、観血的手術は骨にしてみれば外傷なのでステムと骨が馴染むまで荷重は待つべきであるといった報告があります。
過去には8週間前後のパスが多かったようですが、近年では4週間前後を退院としたパスが多く使われているように思います。これは早期荷重によって「骨にその後の悪変化がない」という立場に立って進めるのが主流になっているということだと思います。
次は人工骨頭と内固定術の骨の安定性についてです。
メカニカルな安定性
骨折の治療とリハビリテーション―ゴールへの至適アプローチ(2002)には次のように記載されています。
人工骨頭置換術
直後〜最初の一週間
完全にメカニカルな安定性が得られている。以降変化なし
内固定術
直後〜最初の1週間
内固定材料でしっかり固定されると直後より安定性が得られる。
〜2週間
安定性に変化なし
4〜6週間
骨折部の内骨膜側に仮骨の架橋ができ、中等度の安定性が得られる
8~12週間
さらなる安定性。
12〜16週間
確実な安定性が得られる。全荷重開始。
これは骨癒合の経過を追っていると思われ、8週間のパスよりも少し遅い書き方をされています。
内固定の全荷重が12週からされるとなっていますが、現在は固定によっては術後すぐに痛みに応じてFWB可能とされることがあるので随分と遅いです。
これは内固定材料や手術手技の進歩があり、荷重量を制限しなくて済むようになったためだと思われます。
昔の文献ですが12週間からが組織的に安定する時期、骨とステムが完全に馴染む時期と考えると目標を上げる目安の時期になるのじゃないかな?と思います。
例えばまた畑を始める、友達の家に遊びに行くなど、より活動性を上げてみるということです。
「12週間経ったので頑張ってみましょう」なんて声を掛けれるかもしれません。
小さいリスクをとって大きな廃用のリスクをとらない
しかし早期離床はなかなか大変です。
実際に4週間のパスで不都合が生じたというのは超高齢者や合併症を生じた例でなければ聞いたことがありませんが、実際の早期離床はバイタルの変動があったり、ルートがこんがらがったり、創部の離開リスクがあったりなにかと大変です。
リスクや困難があるとどうしても躊躇しがちで、言い訳を考えてしまいます。
- 軟部組織や筋の修復には3週間は必要なわけで創部がもうちょっと安定するまで、、、
- 異化の亢進状態が落ち着いてくれた方が筋トレの効果もでやすいから、、、
- できればそっと痛みがなくなってゆっくり優しく起こしたい、、、
言い訳をツラツラ書いたものの、昨今の医療事情は長期入院なんて許してくれるわけもなく1ヶ月後の退院時に動けなくて困るのは患者さんなので起こさざる得ないわけです。
ルートや創部の管理はスキルでカバーできる小さいリスクとして積極的にとり、廃用症候群という大きなリスクをとらない。そして早期に動けるようになってもらって(一緒になる)退院までにゴールを達成するのがリハビリ職種の腕の見せどころなのじゃないでしょうか。
このためにはクリティカルパスで計画を立てておいて、及び腰になってしまわないようにするのは有効だと思います。
人工骨頭、内固定のクリニカルパス
教科書には意外と書かれていないのでネットで色々な病院さんのパスを検索しみました。
特に一番はじめに書いてある愛媛の済生会西条病院さんのリハビリユニットパス(大腿骨近位部接合術)アウトカム(成果)が分かりやすく書かれていましたた。おすすめです。
手術当日 休み
術後1日目 座位可能
術後2〜3日目 車いす離床、捕まり立ち、平行棒内足踏み、平行棒内歩行が可能
術後4〜7日目 一人で歩行器歩行が可能、患側下肢の荷重、平行棒内片手支持が可能
術後8〜14日目 一人で院内を杖や歩行器で歩行可能
術後15〜28日目 階段昇降、屋外歩行、外泊が可能
患者さん用のページには、人工骨頭は15日目より歩行練習、近位部接合術は8日目より歩行練習と書かれています。
他はこんな感じです。
- 長崎赤十字病院さんは人工骨頭では1日目から車いす離床と歩行練習、3日目から歩行器歩行練習、8日目から杖歩行練習、15日目から応用歩行練習
- 佐世保市立総合病院さんでは、人工骨頭と大腿骨近位部接合術ともに3日目から痛みに応じてFWB、リハビリ室で歩行練習、14日目から状況に応じて平行内歩行練習、杖歩行練習
文献でもいくつかみつけました。早期パスを採用しているものだけ記載します。
阿部ら(2001)のプログラムは人工骨頭置換術とCHSの共通のもので、長期と短期は比較検討のために書かれています。
画像出典:クリティカルパス作成のための, 大腿骨頸部骨折術後リハビリテーション長期・短期プログラムの比較検討
藤村ら(2009)は地域連携パスについての報告ですが、運用されているプロトコールが記載されていました。これは術式ではなく骨折部位で分類されています。
画像出典:大腿骨近位部骨折地域連携パスにおける在院日数バリアンスの検討
まとめ
これを見ると内固定と人工骨頭で大きな差は脱臼以外は設定されていません。
そしてクリニカルパスは手術当日はお休み、1日目座位、3日目痛みに応じてFWB開始、4日目平行棒内歩行練習、7日目歩行器歩行練習、14日目杖歩行練習ぐらいが一般的のようです。
自分の病院のパスと一度比べてみると、改善できる場所がみつかったりするかもしれませんね。
知識を効率よく吸収するなら、良い本を読もう!
大腿骨クリニカルパスを考えるなら、一度読んでおきたい本
下肢の整形リハビリテーションはこの本を読んでおけば、間違い無し。ポイントはすべて抑えてあります。
参考文献
阿部勉 他,クリティカルパス作成のための, 大腿骨頸部骨折術後リハビリテーション長期・短期プログラムの比較検討,日本老年医学会雑誌38(4),pp.514-518,2001.
藤村宣史 他,大腿骨近位部骨折地域連携パスにおける在院日数バリアンスの検討,理学療法学36(1),pp.1-7,2009.
藤原稔史 他,当院における大腿骨転子部骨折手術のクリティカルパス,整形外科と災害外科55(4),pp.482-484,2006.
奥壽郎 他,大腿骨頚部骨折手術例早期リハビリテーション プロトコールの紹介と作成の経緯,東保学誌2(4),pp27-30,2000.
江藤文夫(翻訳)他,骨折による治療とリハビリテーション,2002