不思議だったのですが
伸展では脛骨に注目することが多いのに屈曲は大腿骨に注目することが多いのです。
なんでだろう?
きっと答えは脛骨が屈曲の時にあまり動かないからです。
大腿骨はすべりと転がりの複合運動でゴロゴロぬるぬると動くのに
脛骨は60度くらいから、ごくわずかに後ろに下がるだけなんです。
動きが地味なんですね〜
なので今回は大腿骨に注目します。簡略化するために脛骨が固定されて大腿骨が動くのをイメージしましょう。
ちなみに伸展はスクリューホームムーブメントを中心にリハビリ関係の方が
屈曲はTKAを施行される整形のDrやTKAの販売メーカーが書かれていることが多い印象です。
膝屈曲のバイオメカニクス
目次
それでは膝の動きはどうなっているでしょう?
まず膝関節の安定はACLをはじめとした靭帯によって保たれています。
関節の動きは円運動ですから中心があります。
屈曲でも靭帯は重要な働きをしていて十字靭帯(ACL・PCL)と側副靭帯(MCL・LCL)が交差する点が回転中心になっているのですね。
膝を曲げると回転中心は大腿骨の顆間窩の丸みにそって後上方に移動していきます。
正常な膝では下腿の軟部組織のクッションで止まるまで曲がり続けます。
メディアルピボットモーション(Medial pivot motion)
もう少し詳しく骨の動きから見てみましょう。
完全伸展位から屈曲がはじまると内則顆を中心に外側上顆がころがりながら後方へ移動します。
これをメディアルピボットモーション(Medial pivot motion)といいます。
内則顆を軸にコンパスやバスケのピボットのように後方に動くんですね。
スクリューホームムーブメントを大腿骨側から見ているわけです。
つまり大腿骨は後方に外旋、脛骨は前方に内旋するわけです。
可能にしている理由は諸説ありますが
①ACLやPCL、膝窩筋が生理的に大腿外旋に対してゆるみがあるため(lateral laxity)。これは屈曲位になるほど増えていきます。
②内側半月板のくぼみに内側上顆がはまり込むため。外側と違いすり鉢のように深くなっています。
この二つです。①の方が書かれることが多いです。
上図は2013/8/17に講義して頂いた石井慎一郎先生の板書です。これによると急激な下腿内旋は屈曲30度まで続きます。
膝のロールバック(rollback)
屈曲30度をすぎると内旋要素が少なり大腿骨顆部が後方に引っ張られ、すべりと転りをはじめます。
引っ張る主役はPCLです。ACLの影に隠れて目立たない彼も屈曲の際はたくましく活躍します。
同時にACLはサポートにまわり急激に伸張され、後ろに脱臼しないようにブレーキをかけてくれます。
感動的な連携プレーですね。
こうやって後ろに動くことで斜膝窩靭帯や弓状膝窩靭帯など後方の組織の伸張を回避して、屈曲角度を稼いでくれます。
この後方への一連の動きをロールバック(rollback)といいます。前述のとおり主役はPCLです。
ロールバックが起きなければ屈曲は100度で止まってしまいます。
TKAでもPCLの代わりにロールバックを起こすためポスト・カム構造(大きくごろんと回転させるためのでっぱり)
を採用したりしています。
ちなみにメディアルピボットモーション(Medial pivot motion)はTKAの屈曲角度に大きな影響はでないため積極的に再現はされていません。
このまま130度まで屈曲すると急激に下腿の内旋をおこしはじめます。
そしてすべりながら外側顆を半月板ごと亜脱臼させ下腿が迎えにくるまで曲がっていきます。
以上!
効率よく知識を吸収するなら本を読もう!
ロールバックについては人工関節の教科書に多く書かれています。ひとつとなりの分野に答えが書いてあることはよくあります。
こっちがコスパが良い入門本。
こっちは整形外科医向けの本格的な本です。本質が知りたいならどうぞ。
下肢の整形理学療法ならこの本は押さえて置きましょう。
参考にした文献、HP
2013/8/17石井慎一郎先生「膝の機能解剖 歩行からしゃがみ込み動作まで」講義資料
人工膝関節置換術[TKA]のすべて−安全・確実な手術のために
石井慎一郎 膝のゆるみと回旋 http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm142.pdf
整形外科医のブログ TKA: PS・CR・CSタイプ間の違いhttp://seikeigekai.org/archives/28881802.html
TKA Surgrry http://homepage2.nifty.com/topks/Saitama-TJ-Center.html
変形性膝関節症の 動態解析 大森豪 http://www.eisai.jp/medical/clinician/vol58/no603/pdf/sp08_603.pdf