「長引く痛みの原因は、血管が9割」とセンショーナルなタイトルに煽られると、
「ホントかよー?痛みは認知やら絡んで複雑なものだと、啓蒙が進んでるじゃん!」
って思いませんか?
僕は思いました。
本書は2015年に書かれた一般向けの本です。
タイトルは人の目を引くため、派手なタイトルがつくので置いておくとして、
中身はトンデモ本と一線を画す内容。
思えば血管の痛みに注目したことなんてなく、読み進めると一つの引き出しとして
重要な内容だったのでご紹介します。
キーワードは「モヤモヤ血管」こと「病的血管新生」です。
まずは著者、奥野祐次さんの紹介
まずは著者のプロフィール紹介。
1981年、長崎県生まれ、埼玉県出身。慶應義塾大学医学部卒業。2008年、クリニカカルETにて放射線医としてカテーテル治療に従事する。2012年、慶応大学医学研修科修了、研究テーマは「病的血管」。Nature Medicine誌をはじめこれまで複数の医学論文を執筆。江戸川病院(東京都)にて関節の「長引く痛み」に対するカテーテル治療を専門とする。2014年より江戸川病院運動器カテーテルセンター・センター長。治療が困難とされた痛みを抱える患者さんを治療する傍ら。2011年よりかつしかFMのラジオ番組「僕はお医者さん」のパーソナリティーとして活躍中。
1981年ということは、まだ35歳くらい!
もともとはガンの治療を専門としてされていた方で、病的血管に対するカテーテル治療が専門のDrです。
痛みと血管の発想
ガンの治療のなかでカテーテルを動脈に通して、
ピンポイントで抗がん剤を投与して副作用を最低限に押さえるものがあります。
このほかにがんの周囲の血管をつまらせて栄養を遮断する薬もあるのですが、
コチラが重要。
この微小な病的血管を詰まらせる薬を使用したあとで、
いくらかの患者さんが局所の痛みが改善するんだと、嬉しそうに教えてくれるそうなのです!
で、著者は考えます。
はじめは「がんが小さくなるから、痛みが改善するのだろう」と漠然と考えていました。
しかしこの考えは、肩関節周囲炎を併発した、乳がん患者さんの治療から変わっていきます。
ちょうど乳がんと肩の治療位置が近かったことと、何かしらの予感めいたものが背中を押したこともあり、
造影剤を使って肩の栄養血管を映してみました。
すると、どうでしょう。通常では見られない病的血管がもやもやと見えるじゃないですか!そこを薬で血流遮断してみると、、、
痛みが取れてしまった。ROMも頭上まで回復したそうです。
この時のことを、著者はこう振り返っています。
このことは、当時の私にとって少なからず衝撃的でした。ひょっとすると痛みの場所にはあのようなモヤモヤした血管があって、そこに血流が流れていること自体が、痛みの原因になっているのではないか。だからこそ、その流れを遮断しただけであんなにも早く痛みがとれたのではないか。そういうことを考え始めたきっかけでした。
ただし注意したいことがいくつかあります。
著書で後述されていますが、すぐに痛みが取れるのは1/4程度で、適応であっても多くは1月はかかるということです。
なにより他に下降疼痛抑制系の話や理学療法、有酸素運動、生活習慣の改善などとの併用を奨励されていて、EBMに基づいて治療されているのが伺えます。
病的血管新生の影響
さて著書では、生理学から病的血管新生について説明されて説得力がでてきます。全文の紹介はとてもムリなので、痛みの原因になる理由の部分だけご紹介します。
モヤモヤ血管(病的血管)がなぜ痛みの原因になるのでしょうか?理由は3つあります・
- モヤモヤ血管が炎症細胞の供給路(インフラ)になってしまう
- モヤモヤ血管の周りに神経線維が増えてしまう
- 無駄な血流が増えて、低酸素になってしまう
これらの3つのうちどれかひとつ、あるいはいくつか重なることで「長引く痛み」が生じてしまいます。
①炎症細胞の供給路
まず①は病的血管がある部位は、周囲の細胞に対して過剰に水分を供給してしまい「腫脹」を起こしてしまようです。これが引き金となって、
炎症細胞をさらに呼び込んで、炎症を起こすといった具合です。
②神経線維の増加
②ですが、体の基本ルールとして、血管の新生された場所に対となって神経線維が発生すると証明されているそうです。
また新生されるのは裸の神経細胞(C線維?)とのことで、コレが血流に刺激されて鈍痛の原因の一部となっているのでは?としています。
③低酸素
血管が増えているのに酸素足りないの?と思うかもしれませんが、増えすぎたことで栄養が必要な場所にいかないということです。
たとえ血管といえど、無駄に多くていいことはないのです。
理学療法の役割
最後に治療の項目で、理学療法についても触れて下さっています。
それは病的血管新生は、一因として「繰り返しのメカニカルストレス」からも発生するとされています。
なので対策は姿勢や生活週間の改善と機能的要因の解決になってきます。
これ理学療法士を含むリハビリテーションスタッフの得意分野ですよね。
しかしチクリとこんな説明も、、
理学療法はアートのような側面が非常に強いのです。すなわち術者の技量の差が大きいのです。レストラン一軒一軒に味の差があるように、理学療法を提供する治療者にも良し悪しがあります。研究熱心で患者さん思いの治療者に診てもらうことは非常に効果的です。
レストランとは言い得て妙ですねー。できたら美味しい側に回りたいので、日夜研鑽していきましょう!
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